今年は元日の能登半島地震に始まり、被災地を容赦なく襲った9月の大雨災害。そして千鳥足以上にノロノロの台風10号による各地での大雨…
さらには、猛暑。夏の厳しく長い厚さは未だに記憶に新しいところ。今年の日本の年平均気温と日本近海の年平均海面水温、そして世界の平均気温も、これまでの最高であった去年を大きく上回り、統計開始以降最も高くなる見込み。2024年、本当にいろいろなことがありました…
今回はそんな異常気象に翻弄された今年のスポーツ界についてお話したいと思います。
今年驚いたことがいくつかあります。そのひとつは、プロ野球のナイトゲームで熱中症の症状を訴える選手が続出したこと…
1試合で多い選手だと15キロ近くのダッシュを繰り返すサッカーならわかるのですが、多くの勝負シーンで持久力よりも瞬発力が求められるプロ野球ではこれまでほとんど聞いたことがありませんでした。
Jリーグでは、WGBTの値が一定の基準を超えると、試合途中に飲水タイムを設けることになっています
また、夏の甲子園・全国高校野球選手権大会では今年、熱中症対策のため、一部の試合で午前と夕方以降の2部制が初めて導入されました。それでも大会中、56人の球児で熱中症が疑われる症状が出たそうです。(実は、これまで熱中症についてはアンタッチャブルでした。15年ほど前、夏の甲子園の開会式を取材したことがありますが、1時間足らずの開会式で、選手、大会関係者など、式に参加した10人ほどが熱中症で退場したのを確認しています。高校野球、とりわけ甲子園については、問題が本当に根深いです)
選手だけではありません。試合を観に来た観客も少なからず、熱中症を訴えるケースも本当に増えています。(なぜか9月の土日の多くがデーゲームだった広島では、かなりいろんなことが起こったとのこと… あ、カープが9月に失速したのは、9月の暑さ以上に、選手層が極薄だったのが…以下略)
中の人、暑いのに、本当にご苦労さまです…
一方、雨…
サッカーは基本的に降雨でも試合が実施されます。しかし、今年のJリーグでは大雨や雷雨によって、試合が中止、延期になるケースが相次ぎました。
ザクっと調べたところ、雷雨で試合前に中止が決定・延期された試合が2試合。試合途中の雷雨により途中で中止、後日再開となった試合が2試合。また、8月の台風10号の影響で、5試合が中止、後日に延期されました。こんなに多くの試合に影響が出たのは記憶にありません。また、試合の途中中断も含めると、かなりの試合が天候の影響を受けています。
私は20年近く前からサンフレッチェ広島の試合運営で、天候面のサポートをしていますが、試合運営で一番気を使うのが「雷雨」 クラブスタッフや審判の方々がみな異口同音に口を揃えます。ピッチ上の選手だけでなく、観客の安全を確保するためにも、雷にはかなり神経と尖らせています(日本は観客席に屋根がないスタジアムが本当に多いですし…)
また、近年はさらに頭を悩ませることが増えています。数年前までは、スタジアムの上の空模様だけ考えておけば事が足りたのですが、近年は試合前後の遠征移動も含めて、トータルで考えなければいけないからです…
アウェイチームは必ず前日までに、試合がある都市に移動する必要があります。また基本的には「新幹線利用」が原則なんだそうです。移動の道中の気象状況はもちろん、計画運休などイレギュラーな要素も考慮に入れなくてはいけません。そういう意味では、今年は本当に難しい1年でした。
ひとつ例をあげると…
8月末のFC東京戦では、先に挙げた台風10号の影響が懸念されていました。週の半ばの時点で当日の運営に支障がないと結論付けて、試合開催に向けて動いたのですが、東海地方の大雨によって新幹線が異例の長期運休をしたこともあり、FC東京の選手やスタッフがなかなか広島入りできませんでした。すったもんだあった末に、選手は当日朝に広島入り。コンディションが心配されましたが、FC東京の選手たちのプレイは満員の観客を唸らせる素晴らしいものでした。またそれ以上に、そんな選手たちをサポートしようと、陸路や空路などあらゆる手段を使って広島入りしたFC東京のサポーターたちが繰り広げる応援は、広島の選手やサポーターたちを感動させたのでした。(今回は、当然計画運休なども織り込み済みでの予測ではありました。これ以上の話はここでは控えさせていただきます)
また11月はじめの大雨で、広島では女子のWEリーグの試合を1試合中止・延期にしています。(11月で24時間200ミリ以上の雨は、広島ではこれまでにない異例の現象です…)
「台風でも来ちゃった!笑」 「来れなかった人のぶんまで」
あらゆる手段を使って広島に馳せ参じたFC東京サポーター
試合後、FC東京のサポーターに感謝の意を表すため挨拶をするサンフレッチェ広島の選手たち
Jリーグではこれまでの早春(2月)スタートの“春秋制”を、2026年から2027年にかけてのシーズンから、9月スタートの“秋春制”に変更されます。アジア最強のクラブチームを決めるアジア・チャンピオンズリーグ制覇への後押しや欧州のクラブへの移籍を容易にするため、また代表戦のスケジュールをスムーズに進める意図があるのですが、梅雨や酷暑の試合負担を和らげる目論見も当初はあったようです。しかし、今年の天候や今後の気候変動の状況を考える限り、その目論見は脆くも崩れ去るだろうと言わざるを得ません。
先日、秋春制をスムーズに移行させるための陣頭指揮を執っている旧知のJリーグスタッフと久々に話をしましたが、昨今の異常気象にはリーグとして本当に頭を抱えているとのこと…
気候変動の影響を受けるのは、なにも野球やサッカーだけではありません。他のスポーツも大きな影響を受けるはずです。また選手やスタッフだけではありません。それをサポート、応援する多くの人たちにも影響が出ています。
気象予報士、気象キャスターとして、気候変動やその影響にどう向き合っていくのか…
改めて考えさせられる2024年だったと個人的には思っています。
まったくの余談ですが、この件についてあるサッカーのライターの方から取材を受けました。
有料記事ではあるのですが、ご興味がある方はぜひ読んでみてください。
宇都宮徹壱ウェブマガジン「徹マガ」
https://www4.targma.jp/tetsumaga/2024/09/17/post34831/
担当理事:波田健一