9月13日  理事のお天気だより

きょう広島からご紹介するのは、ことし開館から30年を迎えた江波山気象館(広島市中区)です。

江波山気象館は、広島市中区の海沿いにある江波山という少し小高い丘の上にあります。1992年にオープンした全国でも珍しい気象をテーマにした博物館です。
この建物は、戦前から昭和の終わりころまで広島の気象台として使われていました。戦前の鉄筋コンクリート建築としてもデザイン性を含めて貴重な建物だそうで市の重要文化財になっています。

この場所は、気象キャスターのみなさんなら一度は読まれたことがある方も多いであろう「空白の天気図」の舞台です。
1975年に柳田邦男さんが発表した作品で、原爆投下やその1か月後に広島を襲った枕崎台風について、当時の気象台職員たちの姿を通して描いたドキュメンタリーです。
それまで原爆被害の陰に埋もれがちだった枕崎台風の被害の実態を掘り起こしました。


江波山気象館には、原爆や枕崎台風に関する痕跡や資料が数多く残されています。
原爆がさく裂した爆心地からおよそ3.7kmの距離にありますが、館内には、原爆の爆風で割れたガラスが突き刺さった壁や、爆風によって曲がった窓枠がそのままの状態で保存されています。
また、8月6日の当番日誌や、その後の原爆被害について、気象台職員が中心となって調査した報告書も残っています。



枕崎台風に関する資料も色々と残っています。当日の天気図や、当時の気象台の職員が観測した雨や風の記録も保存されています。昭和の三大台風の一つで全国で3756人の犠牲者が出たとされますが、このうち広島県内だけでおよそ2000人に達したとされています。

当時の報告書では、広島県を通過した際の枕崎台風を描いた等圧線は、中心のようなものが2つ描かれているほか、前線も書きこまれているのが興味深いところです。


また、枕崎台風による大雨では、県内各地で土石流が相次ぎましたが、なぜ起きたのかについての考察も載っています。



今から7年前に柳田邦男さんを江波山気象館に招いて取材をしたことがあります。
「空白の天気図」というタイトルについては、「広島の住民が原爆被災の混乱に加えて、何も情報もないまま空前の台風災害を受ける状況の象徴として、このタイトルをつけた」と話していました。


広島に来る機会がありましたら、ぜひ訪問先の候補の一つに入れてみてはいかがでしょうか。「空白の天気図」を読んでから来られると、より当時のことが、色々とリアルに感じられるかもしれません。

原爆と気象台(江波山気象館HP)
https://www.ebayama.jp/?page_id=3135

担当理事:岩永哲